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第61話 特別なフェロモン①

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-08 19:00:46

 息を切らせて走る。

 第三学生棟の大講堂から第一研究棟の理玖の研究室までは、かなりの距離がある。

 学内の校舎の中で、対角線上で一番遠い距離だ。

(無事でいて欲しい。晴翔くん、晴翔君、晴翔くん……!)

 いつもより急いで走っているのに、全然前に進まない。

 転びそうになりながら、やっと第一学生棟から第一研究棟一階に続く渡り廊下に辿り着いた。

「向井先生!」

 栗花落が必死の形相で理玖に向かって手を上げている。

 理玖に駆け寄ると、その腕を掴んで走り出した。

「晴翔君……、晴翔君は……」

 息が上がって、言葉が続かない。

「学生に興奮剤を打たれたけど、内服薬を飲ませて様子見てるっす。応急処置でしかないから、早く病院に連れていきたいんすけど、救急車の到着が遅れてて……」

 理玖の腕を掴んで階段を駆け上がりながら、栗花落が説明をくれた。

「学生に……」

 積木が話していた白石だろうか。

 密かに晴翔に想いを寄せていた白石に興奮剤を持たせて襲わせたのだろうか。

(人の気持ちを利用して、非合法な薬を使って、非人道的な行動を促してまで、WOの人口を増やしたいのか。それがRISEの理想か)

 だとしたら、どれだけ考え直しても賛同など出来ない。

「向井先生ならこの場でも何とかできるかもしれないから、迎えに行きたかったんすけど。すれ違っても嫌なんで、あそこで待ってたんす」

 第一研究棟と学生棟を繋ぐ通用口は一か所しかない。

 だが、学生棟は階段もエレベーターも何か所かあるから、理玖がどのルートで戻ってくるか、わからな

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